九州大学工学部で学び、研究者&教員の道へと進んだ若手の先生方と
日々それぞれの研究に励んでいる現役の学部生・院生たちが
研究の楽しさや九州大学工学部の魅力、将来の夢について語ります。
小山 恵史さん
工学研究院
地球資源システム工学部門 助教
2015年3月
九州大学工学部地球環境工学科卒業
2020年3月
工学府地球資源システム工学専攻
博士課程修了
新盛 弘法さん
工学研究院
機械工学部門 助教
2018年3月
九州大学工学部機械航空工学科卒業
2023年3月
工学府機械工学科専攻
博士課程修了
永井 薫さん
工学研究院
応用化学部門 助教
2017年3月
九州大学工学部物質科学工学科卒業
2022年3月
工学府化学システム工学専攻
博士課程修了
人間環境学府空間システム専攻
修士課程1年
(広島県広島高校出身)
工学部土木工学科
4年
(長崎県諫早高校出身)
工学部船舶海洋工学科
4年
(宮崎県宮崎学園高校出身)
工学府量子物理工学専攻
修士課程2年
(福岡県門司学園高校出身)
工学部航空宇宙工学科
4年
(福岡県福岡雙葉高校出身)
システム情報科学府情報理工学専攻
修士課程1年
(愛媛県松山南高校出身)
工学部材料工学科
4年
(福岡県久留米工業高等専門学校出身)
工学府応用化学専攻
修士課程2年
(福岡県北九州工業高等専門学校出身)
工学府化学工学専攻
修士課程1年
(広島県立府中高校出身)
工学部融合基礎工学科
4年
(岡山県津山高校出身)
工学府機械工学専攻
修士課程1年
(愛媛県松山南高校出身)
山本研究院長:まずは集まっていただいた学生の皆さんから、自己紹介を兼ねて今の学科や研究分野を選んだ理由をお話しください。
尾山:システム情報科学府の修士1年、尾山幹大です。出身校は愛媛県の松山南高等学校です。電気情報工学科に入ったのは、最新のスマートフォンやゲーム機を扱うのが好きで将来はIT系の仕事に就けたらいいなと思っていたからです。現在はスポーツセンシングの研究をやっています。小学校から高校まで野球をやって来て、今は硬式野球部で選手ではなくデータ分析スタッフとして携わって配球の分析やバッターの動作分析をやっています。いろいろなスポーツをIT機器で解明するのがおもしろいなと思っています。
佐藤:材料工学科4年の佐藤です。出身校は、久留米工業高等専門学校で材料工学を専攻していました。高専での授業を通して、鉄鋼材料に興味を持ち、さらに研究を続けたいと思ったときに、充実した研究環境がある九州大学工学部を魅力に感じて編入してきました。身の回りにあふれるものを作るのに材料は欠かせないという、材料の重要性に惹かれて材料工学科を選びました。今は鉄鋼材料の研究を続けています。
井上:工学府応用化学専攻の修士2年、井上です。北九州工業高等専門学校から編入してきました。中学時代から化学の授業が好きで将来は絶対に化学に携わりたいと思っていました。化学の中でも光に関係するものが一番おもしろいなと思い、より深く研究を進めたいと思って九州大学に来て、大学院に進みました。今は光機能性材料を作ってその評価を行う研究をしています。
大元:広島の府中高等学校出身の大元です。物質科学工学科を経て、今は工学府化学工学専攻の修士1年です。高校時代から物理と化学が学問としておもしろいなと思っていました。現在Ⅱ群の物質科学工学科は多岐にわたる分野の先生が授業を持たれていて、分子レベルの化学反応や細胞生物学、データサイエンスなどさまざまな学問を学ぶことができます。高校時代に学んできた学問を延長して、大学でも幅広く学んでいきたいと思って物質科学工学科を選びました。現在の専攻を選んだ理由も同じで、物質科学工学科で工業としての科学を知識として幅広く学んできたので、その知識をすべて使って研究してみたいと思ったからです。
池上:工学部融合基礎工学科4年の池上です。岡山県立津山高等学校出身です。九州大学を選んだ理由は、工学が強いと思ったからです。Ⅲ群に入学して1年間学び、どの分野も面白くて1つに絞ることができなかったので、複数の分野について学べる融合基礎工学科を選びました。また、私たちが入学した年に新設された融合基礎工学科の1期生になることと、どんなところかなという興味もあり選びました。
角田:工学府機械工学専攻修士1年の角田です。出身は愛媛県の松山南高等学校です。機械工学を志望した理由は、幼い頃から社会を支える電気・ガス・水道・交通・通信などのインフラに漠然とした興味があって、そういった産業に関わりたいと思って機械工学を選びました。学部4年の時に所属した流体制御研究室で実験とか計算とか学ぶことが多かったので、そのまま継続して工学府に進むことにしました。
河野:航空宇宙工学科4年の河野です。福岡県の福岡雙葉高等学校出身です。私が航空宇宙工学科を選んだ理由は、技術が進んだ今でも、まだ解明されていない不可思議な現象が起こる宇宙分野に興味があったため、宇宙分野の産業や開発に携わりたいと思ったからです。現在は宇宙ゴミの除去をテーマにした研究を進めています。宇宙開発が進む影響で宇宙ゴミがどんどん増加していて、より安全に宇宙開発できるように宇宙ゴミを減らすことができればと思っています。
浦川:工学府量子物理工学専攻の修士2年で、出身校は福岡県門司学園高等学校です。私が九州大学に入ったときはエネルギー科学科という名称でエネルギー問題を扱う学科でした。小学生の頃から環境問題やエネルギー問題に興味があって、エネルギーについて学べるならと思って選びました。中でも量子物理という分野を選んだのは、高校の最後の方に学ぶ量子物理学がおもしろいなと思ったのと、東日本大震災で原子力発電所の問題が注目されて自分でもちゃんと学んでみたいと思ったからです。研究テーマは原子力発電用の燃料の融点を測ることです。模擬燃料を作ってレーザーを当てて融点を測っています。
肥田:船舶海洋工学科4年の肥田です。宮崎学園高等学校から来ました。大学受験時はまだやりたいことがはっきりと決まっていなくて、2年でコース選択ができるⅥ群を受験しました。1年の間に他の学科について話を聞いたり、調べたりするうちに、大きい船だと東京タワーより長いとか日本の貿易の99%が船で行われているということを聞いて船舶業界に興味をもって船舶海洋工学科に決めました。
山根:土木工学科4年の山根です。長崎県の諫早高等学校出身です。土木工学科を目指した理由ですが、私が普段暮らしている街が誰によって、どのような工程で作られているのかに興味があったからです。道路や橋といったインフラ設備やその土台となる地盤について学んでいます。講義では水の流れや構造など、座学ばかりではなく地域住民の方々との意見交換を取り入れながらプロジェクトを進めるための合意形成の方法も学んだりします。構造物やモノを作るだけでなく、それを使う人やそこに住む人の思いを含めた街づくりをしたいと思っています。
樋口:人間環境学府の空間システム専攻、修士1年の樋口です。出身校は広島県の広島高等学校です。昔からモノづくりが好きで、最初は住まい寄りの住民学に興味があったのですが、もっと建築について広く学んでみようと思って建築学科を選びました。大学3年間で住居以外にも興味がわいて、4年の研究室配属の際に建築エンジニアリング研究室というエンジニアリングの面から建築の形を考える研究室を選びました。今は研究を通して得られた知見をもとに、建築物を実際に建ててみるプロジェクトを通して研究を進めています。
山本研究院長:それでは若手の先生方も同じような自己紹介をお願いいたします。
永井助教:応用化学部門の助教をしております永井薫子です。今は高分子化学や有機化学を解明する内容で研究を行っています。出身高校は福岡高等学校で、九州大学工学部の卒業生です。高校生のときから授業の中で化学が一番楽しいなと思っていたのですが、オープンキャンパスに参加した際に九州大学には理学部の化学科と工学部の応用化学コースの2つがあることを知りました。オープンキャンパスでは「九州大学で化学をやるなら応用化学コース」という宣伝をされていて、それに影響を受けて工学部への進学を決めました。研究者の道を選んだのは、巡り合わせの部分が大きくて、高校時代に工学部を選んだのも「こっちの方が楽しそうだな」と思ったからですが、その後も「楽しそうな方を選択する」ということを繰り返してきたうちに気づいたら助教まで来たというのが実際のところです。
新盛助教:新盛弘法です。所属は工学研究院の機械工学部門です。出身は宮崎県の宮崎大宮高等学校です。私はちょうど10年前に学部生として九州大学工学部に入りました。以前からロボットをやりたいなと思っていて、当時の機械航空工学科に進学しました。研究室配属の際に最後まで山本先生のロボットの研究室に入るか迷っていたのですが(笑)、人工関節という医療器具をやっている研究室があり「これをロボット的にしたらどうなるだろう」というモチベーションでそちらの研究室に入りました。アプリケーションとしては人工関節になるのですが、研究分野はトライボロジーと呼ばれる摩擦・摩耗・潤滑になります。すごく滑らかに動いて、なおかつ長持ちする消しゴムを作るという研究です。馴染みのない分野ですが、機械系でも自然現象でもモノが動くと必ず摩擦・摩耗が生じるというところに魅かれて研究を続けています。研究者の道を選んだ理由は、いろいろと実験を続けていくと予想しなかったところに繋がっていくことがあり、そこにおもしろみを感じたからです。
小山助教:地球資源システム工学部門助教の小山です。出身校は福岡の城南高等学校です。九州大学の地球資源を目指そうと思った理由は、私が中学生の頃に環境問題が学校の授業に盛り込まれる走りだったと思いますが、そこから環境問題に興味を持ったのがきっかけです。高校の進学相談室で資料を見ていたときに、九州大学工学部に当時の地球環境工学科があることを見つけて進路を決めました。そのパンフレットの中に「この研究室はいいな」というのがあって、その研究室を目指して九州大学に入りました。今もその研究室で研究を進めています。研究内容は資源・鉱物ですが、山から鉱石を取ってきて金属を取り出すというものです。皆さんの研究の一番根底にある「材料を取って来ないと何にもできないよ」という部分を担っているので、ぜひ感謝していただければと思います(笑)。実際にはバイオプロセスという微生物を使って金属を抽出する、ちょっと化学よりの研究です。私が学部生の時は、修士と博士の一貫コースというのがあって、学部生の時点で博士課程まで行くかどうかを決めないといけませんでした。学部4年のときにかなり悩んで一応就活もやってみたのですが、社会でやりたいことがなかなか見つからず「やってみるか」と進学を決めました。博士課程まで終えてそのまま研究者になったという次第です。
山本研究院長:専攻している学問や研究で楽しさを感じる部分、逆に難しさを感じていることがあれば教えてください。
尾山:シスポーツセンシングの研究をやっています。さまざまなセンサーを使って選手の動きをデータとして取得し、そのデータを処理して選手ごとの特徴を分析します。データを通じて「おそらくこうだろう」という仮説を裏付けることができたり、新しい発見があったりするときに大きなやりがいを感じます。例えば、スポーツが得意な人と苦手な人の違いを数値で処理することで、その理由を証明することが可能です。難しさや辛さは、単にデータを取得してそれを機械に入力するだけでは良い結果は得られない点にあります。データをいかに正確に取得するか、またソフトウェアをどのように工夫して使用するかについては、継続的に学び続ける必要があります。
井上:私は多孔性金属錯体と呼ばれる材料を合成し、量子ビットを使ったセンサーとして機能させることについて研究しています。新しく作った材料がちゃんとセンサーとして機能したり、違う化学物質に対して応答を示してそれが「どうしてなのだろう?」と考えるときが楽しいです。難しさを感じるのは、新しい材料を作るまでに時間がかかること、作っても少量しか取れなくて評価ができないことです。満足のいく量の材料を作るまでが本当に難しく辛いです。
井上:工学府応用化学専攻の修士2年、井上です。北九州工業高等専門学校から編入してきました。中学時代から化学の授業が好きで将来は絶対に化学に携わりたいと思っていました。化学の中でも光に関係するものが一番おもしろいなと思い、より深く研究を進めたいと思って九州大学に来て、大学院に進みました。今は光機能性材料を作ってその評価を行う研究をしています。
池上:ダイヤモンドと酸化ガリウムを用いたヘテロpn接合ダイオードの作製に向けた基盤研究を行っています。類似したテーマで研究を行っている先輩方に教わりながら研究を進めるのはとても楽しいです。研究室では、材料作製から評価、デバイス作製まで一貫して行うところが面白いと思います。しかし私は半導体や結晶構造といった分野に明るくないので、専門用語を理解するのに苦労しています。
河野:私は宇宙ゴミの除去に関する研究をしています。宇宙ではさまざまな要因によりデブリが乱回転をしていますが、それに対して衛星からレーザーを当てることで姿勢を制御して除去しやすい姿勢にするという研究です。企業と共同研究を行っていて実現される可能性が高い点にとても魅力を感じています。宇宙で起こる現象は想像もしづらいですし、実験もやりづらい面があるので、得られたデータがどのようなことを示しているのか理解しづらいところに難しさを感じています。
角田:工学府機械工学専攻修士1年の角田です。出身は愛媛県の松山南高等学校です。機械工学を志望した理由は、幼い頃から社会を支える電気・ガス・水道・交通・通信などのインフラに漠然とした興味があって、そういった産業に関わりたいと思って機械工学を選びました。学部4年の時に所属した流体制御研究室で実験とか計算とか学ぶことが多かったので、そのまま継続して工学府に進むことにしました。
肥田:私の研究は無電源マテリアルハンドリング機構です。船を造るときに数トンにも及ぶ鋼の板をクレーンの磁石で持ち上げるのですが、クレーンを鋼板に置いたら持ち上げるモードになって、鋼板を目的の場所に置いたら切り離すモードになる、そうしたオンとオフの切り替えを無電源で実現しようというものです。先日、先輩の実験をお手伝いした際に実際の造船所に行くことができました。そこで現場の環境を知ることができましたし、造船所で似たような研究をしている人たちに意見をいただいて、研究生活の充実感を得ることができました。逆に思ったように動かなかったり、思った性能が出なかったときに構造を見直すのは大変だなと感じます。
山根:鉄筋コンクリートの電気防食について研究しています。鉄筋コンクリートは年数が経過すると中の鉄筋が腐食して建物が崩壊する原因になるので、それを防ぐ1つの方法として鉄筋に電流をかけることで防食するという研究です。コンクリートは腐食するまでにかなりの時間を要するので1年や2年で実験結果が出ないことが普通ですからモチベーションの維持は難しいなと思います。研究室の同期や先輩方も同じような境遇で進めていて、お互いにテーマを超えて助け合いながら研究しているので、コミュニケーションや人とのつながりという点には魅力を感じています。
山本研究院長:若手の先生方も楽しさや難しさを教えてください。
永井助教:体の中で病気の原因となっている化合物に対する薬を作る研究を行っています。楽しいところは自分が実際に作った化合物が薬として働いてくれたり、どんな構造を持つ化合物を作れば薬として機能してくれるのかを考えることです。化学をどんどん突き詰めることで生命の中で起こっている現象や、生命とは何かを分子レベルで理解できる点にもおもしろさを感じています。化学の面で辛さを感じることはあまりありませんが、自分が発見した新しいことを英語で世界に発表する必要があります。私は高校時代から英語が得意ではなかったので、もっと気合を入れて英語をがんばっておけば良かったなと思います。
新盛助教:僕の研究は人工関節です。現在、人工関節の主な素材はポリエチレンや金属のセラミックです。体の中に入れるものなので、自転車のチェーンのように油をさせばいいというものではありません。体の中ではタンパク質が悪さをすることが多いのでその辺を突き詰める研究をしてきました。他大学や企業とも共同研究をしていて、今のスタンダードであるポリエチレンを超えるものに挑戦してきましたし、関節にある軟骨という柔らかい組織を模倣できないかということも進めてきました。そういう中で、タンパク質中で試験して「この辺が共通しているな」とかを見つけるのが楽しさだったりしますね。難しいと思うのは、やはり結果が出ないときです。それと、やりたいことが複数あって時間が足りないなと思う点ですね。共同研究では、すぐに製品になるものもあれば、少し遅れて製品化されるものもあり、それまで秘密にしておかなければいけない点にもどかしさを感じることがあります。
小山助教:私がやっているのは鉱石から金属を取り出す研究ですが、微生物に鉱物を分解してもらうバイオプロセスという研究になります。勝手に人類が微生物を利用し始めたというわけではなく、鉱山では雨が降り、それが浸透して中で自然に微生物が増えて金属を含む水が出てくるという現象が実際に起きています。それを研究に落とし込んでいるというわけです。研究のおもしろさは、例えばそこにいる微生物と全然違う微生物を加えてみると予想もしない現象が起きたりすることですね。逆に難しいことは、小さなスケールで試験をして良い結果が出ても、それを現場でスケールアップするとまったくうまくいかなかったりするところですね。
山本研究院長:九州大学で学んでいて「こういう点が良いな」と思える点を挙げていただければと思います。
佐藤:高専で材料工学を学んでいて、講義や実験を通して鉄鋼材料に興味をもちました。鉄鋼材料の研究を続けたいと思ったときに、鉄鋼材料を対象にした研究室が複数あることと研究設備が充実していることに魅力を感じて九州大学への編入を決めました。研究室に配属されて4月から実験が始まったのですが、試料の作成から鉄鋼のミクロ組織の観察、分析まで一連の流れを自分で大学内の装置を使ってできることがとても良いなと思います。特に超顕微解析研究センターにある装置を初めて見たときは感動しました。
大元:高校の時から化学も物理も両方やりたい、どちらも発展させた内容で学びたいと思って物質科学工学科に入りました。九州大学の良さは、やはり研究設備にあると思います。卒論の際に中央分析センターでX線CT装置を使わせていただきましたが、他の大学であれば外部委託するようなことを歩いてすぐに行ける場所で自分の手で測定できるのは大きなメリットだと思います。
角田:教員や職員の皆さんが親切で実験装置の改善も簡単にさせていただける環境は素晴らしいと思います。研究で行う流体のシミュレーションでもワークステーションで比較的自由に装置を使わせていただけるのもありがたいです。
浦川:中学時代の社会科見学でバスに乗って九州大学に来ました。大きくてきれいなキャンパスだなと思って「いつかこういうキャンパスに通えたらいいな」と思ったのが最初です。高校生の時に大学のことを調べるようになりましたが、原子力の分野で第一人者とされる先生がいらっしゃるということで九州大学に進みました。
必要な設備が自分の研究室になくても、何かしらの研究施設にあるので、自分で研究ができるのが九州大学工学部の強みだと思います。私が研究で使用するのは、いろいろな制約があるウランという特殊な材料ですが、他の大学ではできないような実験も九州大学でならできるのが良いと思います。
樋口:九州大学を選んだ理由はシンプルで「工学系に強い」と聞いたからです。九州大学に入って気づいた良いところは、学生の身分でありながらプロジェクトを通して実際に建築物を建てることができるところです。今、私がやっている糸島の「またいちの塩」という製塩所のプロジェクトでは、太陽熱を集める集熱塔を建てているところです。CGでも模型でもなく、実際に社会の中で、集熱塔が建っていくのは本当に感動します。
山本研究院長:若手の先生方は他の大学のこともご存知だと思いますので、比較する形でお話いただければと思います。
永井助教:私は九州大学の他は産業技術総合研究所と東京大学での研究経験がありますが、九州大学は教育がとても手厚いと感じています。先生方の指導も熱心で学生に向けて使う時間が多いと思います。研究室の先輩方もスライドを添削してくれたり実験で困ったときに相談に乗ってくれたり、教え合う良い循環ができているように思います。
新盛助教:1ヵ月ほどインド工科大学に研究留学した経験があります。インド工科大学は世界の大学ランキングでも5位くらいの大学ですが、施設や設備に関しては九州大学の方が良いと思います。国際的な面に力を入れているのも強みだと思います。
小山助教:私は九州大学の他に関東の大学にいた経験があり、そこと比べるとやはり施設・設備の充実度は高いです。その理由としては、そもそも土地が広いということが挙げられます。関東では限られた敷地内に可能な限り詰め込む形で研究室を建てることになりますが、九州大学は広大な山を切り開いているので、施設を作る土地には余裕があります。もう1つ、国際性の高さも大きな魅力です。資源の研究は、世界を舞台にすることが多いのですが、九州大学には逆に世界中から研究者が集まります。同じ研究室にいた留学生が、今は世界各地に散らばって先生として活躍しています。それは私が国際的に連携を取ろうとしたときにオプションがいっぱいあるということで、大きなメリットだと思います。
山本研究院長:せっかくの機会なので、ここで学生の皆さんから若手の先生方への質問をお聞きしましょう。まずは同じ応用化学専攻ということで井上さんから永井先生に質問があればお願いします。
佐藤:化学は比較的女性の研究者が多い分野だと思いますが、それでも研究者として生きていく上では男性の方が根強いのかなと思います。永井先生が研究者としてのキャリアを選ぶ上で考えられたことを聞かせてください。
永井助教:助教になる前に、博士課程まで進むかどうかが1つの関門になるかと思います。私の場合は、まずデメリットとメリットを考えてみました。デメリットは学費がかかること、結婚や出産というライフイベントが遅れる可能性があるということです。私は化学が大好きだったので、メリットは楽しいことを続けられるということ。現実的に考えるとデメリットが目立つのですが、私は「楽しい方を選ぶ」というモットーがあったので、博士課程に進むことを選びました。博士課程を修了した後にも、社会に出るのかアカデミックに残るかの2択が出てきます。ここで楽しいのはもちろんのこと、自分が持っている業績でどこまで戦えるのかを考えました。同じ世代の人たちの中で、今の自分の立ち位置がどれくらいの立ち位置なのかということを先生方の客観的なアドバイスをいただきました。相談するうえで、どの先生からも言われたのが「結局は楽しいと思う気持ちやアカデミックに残りたいという気持ちがあれば、それに対して手を差し伸べない先生はいないよ」ということです。その言葉を信じて、人と人の繋がりを信じて、この道を選びました。
山本研究院長:工学研究院に進んでいる女性の先生方にはぜひ活躍していただきたいと思っていますし、博士課程に進んで研究者になる選択肢について何らかの障害があるのであれば、できるだけ取り除かなければならないと思っています。次に新盛先生は機械工学なので、同じ機械の角田さんから質問をお願いします。
角田:学生時代と助教になられてからで、社会の立ち位置や視点はどう変わりましたか。
新盛助教:学生の皆さんはいま、自分で実験や解析をされていると思います。私も博士課程まではそのように進めてきましたが、助教になってからも自分の研究については自分で進めておりますが、共同研究や学生指導が入ってくると「人にさせる、してもらう」というマネージメント的な部分が出てきます。ポスドク(博士研究員)は多くの場合、あるプロジェクトやテーマに対してそれだけをすればいいという状況ですが、助教は研究室をもっていろいろなテーマを扱うことになります。自分のメーンの研究は人工関節と申し上げましたが、水素やエネルギーのインフラ設備にも手を出し始めていて、工業的要素への頭の切り替えも必要になってきて大変な反面、いろいろなことができるというが学生と助教の大きな違いになります。
山本研究院長:では小山先生には化学工学の大元さんから質問をお願いします。
大元:近年よく言われるAIは、今後どの分野でも活用されていくと思っているのですが、小山先生は研究へのAIの活用についてどのようにお考えですか。
小山助教:ぜひやりたいですね。私の資源分野に限らず、どの分野でもAIは活用されることになると思います。ただ、自分たちの分野で研究や実験を続けている先生たちが、AIと両刀使いをやるのはなかなか難しいところがあります。理想としてはAIをやっている専門の先生と共同で進めることですが、ある程度のことは自分でやれるようになりたいという想いはあります。
山本研究院長:AIについては工学部のカリキュラムにも取り入れるようにしていますし、大学院でも取り入れられると思います。AI関係やデータサイエンスを応用されている先生も新しく入って来られています。
山本研究院長:それぞれの研究を進めている皆さんは、どのような将来の夢をお持ちなのか、ぜひ聞かせてください。
尾山:IT技術を使ってスポーツをもっとおもしろくできるようにしたいです。サッカーのVARやバレーやテニスで見られるインかアウトかなど、やる人にも見る人にも得がある技術を応用して進化させていければと思っています。
佐藤:鉄鋼材料が好きなので、鉄鋼会社に就職してより良い鉄鋼材料の開発に携わる研究者になりたいです。近い目標として学会で研究成果を発表したいので、それに向けてコツコツとがんばっていきたいです。
井上:化学は新しい材料をイチから作って、材料という面から社会を発展させていくことができる無限大の可能性をもった学問だと思います。私が作っている量子センサーはすぐに社会で使えるものではないですが、自分の研究成果や知見を通して社会の発展に寄与できるようになりたいです。ここまでくるのに高専や編入後の大学の先生方に手厚い教育を受けて化学のおもしろさを伝えていただいたので、私も同じように化学の楽しさをいろいろな人に伝えられる研究者になっていきたいです。
大元:私も学会での発表まで進めていって、九州大学で学んできた化学工学の視点から社会に還元できることに繋げていければいいなと思っています。今は学び続ける姿勢を持ち続けることを大事にしていきたいです。
池上:一番近い目標は大学院入試に合格することです。教授が「研究でビビッと来たら博士課程もありじゃないか」とおっしゃっていたので、その「ビビッ」が来るのを楽しみにしています。
角田:就職するにしても博士課程に進むにしても、学んできた機械工学で社会を支えられるようになりたいです。
河野:将来も宇宙分野の研究を続けていきたいです。宇宙開発は現在活発に研究されている分野で、調査のための有人ロケットの打ち上げも増えているので、安全に宇宙開発や調査が行える一助となるような研究に携わっていきたいです。
浦川:原子力発電に関する研究を行っていますが、エネルギー問題について違う観点でやってみたいのと一度社会を見てみたいという想いから就職することを考えています。環境問題、エネルギー問題を解決するために企業の研究者という立場に立って、視野を広げたいと思っています。
肥田:最近の船舶業界では、船の底から泡をいっぱい出して海の上を滑るように航海したり、凧を船につけて推進力をつけて燃費を良くするユニークなものが出てきています。僕もこれからの研究で培うであろうアイデア力と技術力を活かして、誰も思いつかなかったようなおもしろい技術で船舶業界に革命を起こしたいです。
山根:私は土木の専門的な職に就くというよりも、どのような人間になりたいかに重きを置いていて、私としては多角的な視点を持つ人間になりたいと思っています。もちろん大学で学んだことを活かせる環境に身を置けるとうれしいですが、常に自分の興味をもつ機会になる窓口を限定したくなくて、いろいろなことに対して興味を持ち続けていたいですし、いろいろな分野に精通したいです。
樋口:将来は設計者として建築に関わりたいと思っています。私自身が海外の建築に興味があり、英語を話すことも好きなので、日本国内に限らず国際的に働ける人間になりたいです。
山本研究院長:それでは先生方の将来の夢をお聞かせください。
永井助教:これから先も私自身いろいろな選択があると思いますが、この選択が良かったと思えるような努力を続けていきたいと思います。教員としては、学生の皆さんが卒業する際に「楽しかった」という気持ちを維持できるようにサポートしていきたいです。
新盛助教:大学の研究は、1つの知識を円とするとそれを広げていく作業だと思います。工学部はエンジニアリングでその研究を実用化するという意味において、円ではなく立体的な球として3次元的に広げていく作業になると思います。平面と3次元を繋ぐような「あったらいいな」という技術をどんどん研究できたらいいと思います。教員としては、エンジニアリングということを大切にできるよう、学生の皆さんに伝えていきたいです。
小山助教:「研究は楽しい」と思える環境整備が我々教員の責任だと思っていますので、「楽しい」と気づいてもらえるきっかけを作ってあげたいというのが目標です。研究面では、自分が死ぬまでに人類未踏の地をどこか1ヵ所でも開発して「小山のおかげでそれができるようになった」と言われるようになりたいと思っています。
山本研究院長:先生方より工学に興味をもつ高校生たちにメッセージをお願いします。
永井助教:これから多くの場面で進路を決めていくことになりますが、選んだ時点ではそれが正解だったかどうかはわかりません。将来、選んだ方が正解だったと思えるように努力しようという気持ちを大事にしてほしいです。
新盛助教:まずは局所的に地元・宮崎の高校生に向けてお伝えします。宮崎県民は地元が大好きという人が多いと思いますが、ぜひ自分の目で他の世界を見てみることを大事にしてほしいです。一般の高校生には、大学を選ぶ際に偏差値で判断することが多いと思いますが、まずは自分が何に興味があるのかを考え、それに関して学べる大学をスマホなどでしっかり調べて選択してほしいなと思います。
小山助教:高校生の頃を思い返してみると、いろいろなことに不安を抱いていたと思います。でも、今はいろいろなことを自分で調べられる時代ですから、ひたすら調べ尽くして決めるということに力を入れてほしいです。判断材料を自分でしっかりと揃えることもできると思うので、まずは調べることを大事にしてください。